鉛筆ブラスター

鉛筆が文を置きに来る場所。写真もたまに載せるかもしれない。

終末の思念達

とある研究所。

 

「この世界はもうすぐ終わる」

「らしいですね。Drはここにずっといましたから見てないと思いますけど、パニックになっている人が街中にたくさんいますよ」

世界が終末を迎えようとしている矢先、緊張感なく会話をしている二人がいた。

片方は長い青髪を一つにまとめている顔色の悪い白衣の女。

もう片方は全身チャックだらけの服を着て青い帽子をかぶっている少年。

奇妙なことに、両方とも足がなく浮遊している。

「Drはこれからどうするんですか?」

「Xデーまでは別の世界に行く方法を探すだけだ。お前こそどうするつもりだ?」

「Drのしたいことが僕の目的になる、っていつも言ってるじゃないですかー。Drなら絶対に見つけられますし、それが少しでも楽になるようサポートし続けます」

「こんな時にまでおめでたい頭だ…だがそれならばその身朽ち果てるまで使ってやらんこともない」

「ではその計画の第一歩としてこれを」

少年は持っていたコンビニの袋から缶飲料を一本取り出した。

「野菜ジュースです」

「捨てろ」

「酷っ!?これを飲んで肉体労働に復帰した老人がいるって噂になるぐらいすごいものなのに!」

「そんな草の絞り汁に何ができる。この私にそんなものは必要ない」

「でもDr、健康に気を遣うのも大切ですよ。倒れでもしたら元も子もないですし」

「この私が倒れるとでも?」

「こんな顔色悪い人普通いませんって。倒れそうな人ランキング(うごメモ町調べ)調べたら間違いなく一位になりますよ?」

「それはただの悪口だろうに、ふざけてると炉にブチ込むぞ」

「すいません許してください何でもしますからッ!」

「全く…分かったら資料の整理でもしていろ」

「了解しました!」

少年は驚くべきスピードで部屋を出て行った。

 

「…」

 

「本当に見つかればいいのだがな。モルモット共と心中というのはこの私の最後にふさわしくない」

女は、今まで感じたことのなかった「焦り」をほんの少しだけ実感していた。

 

 

 

 

 

とある教会。

 

「ミトラ様!本当にこの世界は滅んでしまうのですか!?」

「きっとそんなの嘘ですよね!?私たち、死んだりしませんよね!?」

「うわぁぁぁぁぁ!!嫌だ死にたくないぃぃぃぃぃ!!」

「み、皆さん落ち着いて!こういう時こそ冷静に行動しないと!」

世界が終わるとの知らせが出回り、この協会の信者達ももれなくパニックに陥っていた。

ある者はそれが嘘だと信じていつも通り過ごし、ある者は半狂乱状態に陥り、ある者はうずくまってすすり泣き、ある者は教祖にすがりついた。

このパニックから導き出される言葉は、まさに「世界の終わり」。

そんな人々を必死になだめる女教祖の顔にも不安が見て取れた。

 

そして、それをまるで自分には関係がないと言わんばかりに眺めている男が一人。

「全く、どいつもこいつもこの有様…世界が終わるまでやけ食いでもした方がまだマシだろうに」

男は、最初この知らせを聞いて嘘だと思った。

しかし、この情報が嘘だという「はてな」からの知らせが来ないのを見て、紛れもなくこれは事実なのだと悟った。

こんなデマで大規模なパニックが起こっているのなら、すぐにでも鎮圧にかかるはずだ。

世界の終わりともなればパニックを鎮圧する必要もないのだろう、どうせ全て終わるのだから。

そう考えていた。

男は無表情だが、内心不安は感じていた。

「(満足した生活だったとはお世辞にも言えないが…寂しいというのはこういうことを言うのだな)」

 

「何黄昏てるのさ、キャハッ」

黒い服を着た赤髪の少女が、悪戯そうな笑顔を浮かべて男に話しかけた。

「お前か、できれば世界が終わるまで会いたくなかったんだがな」

「珍しいね、私も同意見だよ。案外私たち気が合うかもね」

「フッ…そりゃ死んでも嫌だな…」

男の顔には諦めのようなものが浮かんでいた。

「…何と言うか、今日は張り合いないね」

「こんな時にいつもと変わらないのはお前ぐらいだろう。安心感さえ感じる」

「やっぱ変だよ…というか気持ち悪い…いやそれはいつものことか、キャハハ」

「お前はどうも思ってないのか?」

「もちろん色々考えてるよ!証拠にぃ…こんなもの手に入れちゃったー!キャハハ!」

差し出された少女の手には安物感満載のメッキが塗られた奇妙な首飾りがぶら下がっていた。

「…何だこれ?」

「世界が終わっても死なないお守りだよ!ミトラ様の分と、あと他の信者の分…ちょっとだけだけど…も買ってきたんだ!あ、もちろんあんたの分は無いよ!キャハハハ!」

「何故そんなに綺麗に騙されることができるんだろうなぁ…」

「えっ。でもモ○ドセレクション受賞って書いてあったし何か凄そうじゃん」

「その何たらセレクションってやつは食品に与えられる賞だぞ」

「じゃぁ…これは…」

「ただのガラクタだ」

「…笑えないよ…キャハハハ…」

「笑ってるだろうが…しかし、騙した奴も今更金儲けしてどうするつもりなんだろうな。終末論に乗じて金稼ぎするのは分かるが…まだ信じてないのだろうな。無理もない」

「はぁ。じゃあもういいや、これダウトにあげる」

「いらん。ミトラにでもやれ。あの人なら気持ちだけで喜ぶ。」

「ミトラ様にまがい物をあげるなんてとんでもないわ!あんたの家におくりつけてやろっと!キャハハハ!」

「残念だったな、俺はホームレスだ」

「な、なんだとう!?」

 

そんないつも通りの冗談を続けている内に、ふと少女の顔色が曇った。

「どうした?今になって怖気付いたか?」

「まぁ、あながち間違ってないけど。世界が終わったら、私もあんたも消えるじゃん?」

「そうだな」

「あんたと会えないのは嬉しいけど、その、もうみんなとは会えないんだよね?」

「だろうな」

「ミトラ様とも、会えないんだよね?」

「あぁ」

「そんなの、寂しいよ…」

「仕方のないことだ」

 

少女は普段いつもニヤついているせいか、男は少しだけ動揺していた。

しかし、顔には全く出ていない。

そんなガラでもないと、ポーカーフェイスを貫いている。

 

「ダウトは寂しくないの?」

「…」

少しの間、会話が途切れた。

あくまでもパニックの最中なので騒がしく、沈黙ではない。

「寂しくないと言ったら嘘になるだろうな。だが、本当にこればかりは仕方のないことだ。このまま世界が終わるなら、俺はそれを受け入れる」

「…そっか」

 

 

 

終末の日は、刻々と近づいていた。